【Shubh Mangal Zyada Saavdhan】

監督:ヒテーシュ・ケーワーリヤ Hitesh Kewalia
出演:アーユシュマーン・クラーナー、ジテーンドラ・クマール、マヌ・リシ・チャッダー、ニーナー・グプター、ガジラージ・ラーオ

2020年2月21日公開

トレイラー

ストーリー
*******************************
インドの地方都市に住むアマン(ジテーンドラ・クマール)はゲイの青年。孤児でゲイのカールティク(アーユシュマーン・クラーナー)に「一目ぼれ」し、それ以来彼と付き合っている。だが、アマンの父で発明家のシャンカル(カジラージ・ラーオ)や母スナイナー(ニーナー・グプター)ら、保守的で「ホモ嫌い」でもある家族にはとても言い出せない。だが、アマンのいとこの結婚式で二人の関係が家族みんなにバレてしまう。シャンカルは息子を「浄化」しようとし、知人の娘クスム(パンクリー・アヴァスティー)との縁談をむりやりに進めてまでカールティクとの仲を裂こうとする。二人はある計略でシャンカルに対抗しようとするが・・・
******************************

男性インポテンツがテーマのコメディ【Shubh Mangal Saavdhan】(2017)の続編。続編とはいっても前作との共通点は結婚があるだけで、本作【Shubh Mangal Zyada Saavdhan】のはゲイがテーマ。ボリウッドのメインストリーム(名のある俳優を配した娯楽性の高いストーリーである程度の興行収入を見込む作品、といったらいいでしょうか)においてこれまでで一番メインの位置にあるゲイ・ムービーではないかと思います。「インド初のゲイ・コメディ」の看板に偽りなしです。

インド映画のラブストーリーには、【Dilwale Dulhania Le Jayenge】(1995)に代表される「嫁獲りモノ」というジャンルがあります。主人公が愛するヒロインと結婚しようとして、最初は特にヒロインの父親に反対されるが、最後には説き伏せてヒロインと一緒になる。その中ではヒロインの父親は主人公と結婚をさせないためだけに適当な縁談を大急ぎで進めるというパターンもあります。

【Shubh Mangal Zyada Saavdhan】では、その「ヒロイン」の部分がすべて男性に変わっただけです。ヒロインの父親が娘の結婚に反対する理由は主人公が貧しいとか身分が低いというものですが、これが本作では主人公がゲイだからという理由に置き換わっただけです。ゲイを社会全体から差別される存在として描いて社会問題としてのゲイ・カップルを描くのではなく、執拗にゲイに反対する父親を意固地で頭が固い人物として描くことでゲイ・カップルを当たり前の存在として描きだしています。

インド映画もここまで来たかという感じですが、ここまで来たが故に見えてしまう欠点もあります。以下は【Shubh Mangal Zyada Saavdhan】が画期的な作品であることを認めたうえでの指摘です。

それは何かというと、「2人の間に『愛(ピャール)』が見えない」ということです。たしかにこうした映画を観慣れていないために鑑賞者側(つまり私)の見る力がないせいもあるかもしれません。しかし、作品で2人が語らう時間が少ないのは明らか。もちろん、いろいろな事情からカップルが遭えない作品はたくさんありますが、その場合でもわずかに遭える時間を用意し、その場面に俳優も監督も全力尽くして作品中最良の瞬間にしようとする意気込みが伝わってくるものが多いですが、本作ではそうでもありません。

上と同じ理由で「ゲイの主人公の相手役」の評価はしたことがないので難しいのですが、やはりアーユシュマーンの芸達者ぶりに比べるとやはり弱いでしょうか。また、【Badhai Ho】(2010)で素晴らしかったカップルのうち、カジラージ・ラーオは「敵役父親」をコミカルに演じて良かったのですが、ニーナー・グプターのほうは大人しい役で目立たず、ややもったいない使い方になってしまいました。

とはいえ、ヒンディー映画の歴史における記念碑的な作品であることは間違いないですし、ピャールは見えなくとも個性ある出演者が織りなすストーリーはみどころがあります。観ておいて損はない一作です。

 

音楽

「Mere Liye Tum Kaafi Ho」

 

「Aisi Taisi」

「Arey Pyaar Kar Le」

アーユシュマーン・クラーナー  カールティク・シン役

さすがのアーユシュマーンでした。通常のヒーロー役をゲイの役に当てはめるのではなく、「いくらか屈折したところのある一般男性」という自らの得意な役柄に引っ張ってきました。これまでアーユシュマーンの目立った役を合成すると、「ゲイでインポでハゲで女性の声が出せる」というすごいものになります。

ジテーンドラ・クマール  アマン・トリパーティ役

最近はテレビから映画に進出する俳優が多いですが、ジテーンドラの場合はテレビではなくウェブ・シリーズ出身という変わり種(今後はもっと出てくるかもしれません)。器用そうではあるものの、これからすぐに売れ出すという感じはしませんでした。今後の出演作待ち。

ガジラージ・ラーオ  シャンカル・トリパーティ役

息子がゲイと知って逆上し、頑なにカールティクとの関係を妨害しようとする俗物の父親役。現実だったほぼ同じような人物とみらである【Badhaai Ho】(2018)の役(アーユシュマーンの父役)はどうみても善人なのに、本作では悪人とまでは行かずともひどい人物。こうした微妙な演じ分けが見事は優れた俳優です。

ニーナー・グプター  スナイナー・トリパーティ役

ガジラージ・ラーオの妻役は【Badhaai Ho】と同じ。ところが本作はあまり特徴がありませんでした。まあ、伝統的なボリウッドのラブコメでヒロインの母親役といえばかなり決まった型があり、本作でもそうだっただけなのかもしれません。ただし、本作では男性の母役ですが。

2人の脇役女優が良かったので特記。

アマンとの急な縁談に割と乗り気の女性クスム役は映画デビューのパンクリー・アワスティー(左)。テレビでは有名な人のようです。映画でも結構目立っていました。

いつもサングラスをかけているアマンのいとこの「ゴーグル」ラージニー役はマーンヴィー・ガグルー(右)。名前を聞いてもピンと来ないかもしれませんが、【PK】(2014)でアヌシュカー・シャルマーのテレビ局の同僚役。

そして、ストーリーの都合上、女性のヒロインはいない本作ですが、シリーズ前作【Shubh Mangal Saavdhan】のヒロインだったブーミ・ペードネーカルが特別出演しています。

 

これまでもヒンディー映画ではゲイが主人公、あるいはゲイをテーマにした作品は作られてきました。しかし、ゲイ差別を社会問題と見る社会派作品か、メインストリームから外れたアングラ、アウトサイダーの作品でした。日本でも映画祭上映された【Aligarh】(2015)は社会派作品ですし、初の本格ゲイ作品と呼ばれた【Dunno Y… Na Jaane Kyon】(2010)はまだアウトサイダー的な位置付け。自らゲイであることを公にしているオニル監督【My Brother … Nikhil】(2005)、【I Am】(2011)などはその両方の性格を持っています。

 

【Shubh Mangal Zyada Saavdhan】
「初の~作品」は観ておきたいという人、自分には2人の間にきっとピャール(愛)が見えるはずという人、DDLJネタは見逃さないという人、おすすめです。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です