【Shakuntala Devi】

監督:アヌ・メーノーン Anu Menon
出演:ヴィディヤー・バーラン、サーニヤー・マルホートラ、ジーシュー・セーングプター、アミト・サード

2020年7月31日公開(アマゾン・プライム・ビデオ)

トレイラー

ストーリー
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1930年代、バンガロール郊外の農村に生まれたシャクンタラー・デーヴィーは幼い頃から暗算の非凡な才能を示していた。彼女の父親はシャクンタラーを学校に行かせず、彼女の暗算を見世物にして収入を得るようになっていた。成長したシャクンタラー(ヴィディヤー・バーラン)は相変わらず暗算ショーに出演していたが、婚約者との喧嘩別れをきっかけにして家を飛び出し、ロンドンに渡る。

ロンドンでも彼女のショーは成功し、有名になった彼女は興行で世界中を飛び回るようになる。そんな中で出会ったパリトーシュ(ジーシュー・セーングプター)と結婚し、やがて娘が生まれる。シャクンタラーのビジネスはますます成功し、大きな名声と富を築いたが、娘アヌパマー(サーニヤー・マルホートラ)との関係で悩みを抱えることになる。
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暗算の天才で「人間コンピューター」と呼ばれたシャクンタラー・デーヴィーの伝記映画です。インドで数というとインド人数学者ラーマーヌジャンの伝記映画【The Man Who Knew Infiity】(2015)(『奇蹟がくれた数式』)が思い浮かびますが、あちらが数学者なのに対してこちらはひたすら暗算。ただし、ラーマーヌジャンの数学も当時の一般的な数学者は思いも付かないような発想から出発していたというので根底では通ずるところがあるのかもしれません。

シャクンタラー役に演技力ではトップクラスのヴィディヤー・バーラン。ストーリー上で重要な役割を果たす彼女の娘アヌパマー役に【Dangal】(2016)(『ダンガル きっと、つよくなる』)のサーニヤー・マルホートラ。シャクンタラーの夫役に最近は女性主人公の夫役が多いジーシュー・セーングプター。監督のアヌ・メーノーンはこれまで【London, Paris, New York】(2012)、【Waiting】(2016)などを撮っています。

最初にこの作品の内容を聞いたとき、確かにシャクンタラー・デーヴィーはある程度の有名人ですが、ひたすら暗算の天才という印象しかない人物を描いて果たして映画になるのかと思いました。しかも暗算は当然のことながら彼女の頭の中だけで起きていることなので、これほど映像化が難しい題材もないでしょう。

脚本も手掛けたメーノーン監督は、主にシャクンタラーと彼女の娘アヌパマー(こちらも実在で実名)との関係を話の中心にすることで、「暗算しかない」問題を克服しています。作品はいきなり、娘のアヌパマーが母親のシャクンタラーを金銭問題に関して訴えるという劇的なシーンから始まります。母娘関係がどうしてここまでこじれてしまったのか。そこには自身の幼少時の経験の影響を受けて形成されたシャクンタラーの性格が関わっていることが次第に明らかになっていきます。

前半は「暗算の天才」が幼い頃からその才能を表し、やがて(ある事情もあって)ヨーロッパに渡って自ら出演する暗算ショーで有名になるまでの波乱万丈のサクセス・ストーリーで、娯楽作としてはこちらのほうが楽しめます。しかし、実は話の本番は後半から。前半はふつうに明るい女性というヴィディヤー=シャクンタラーが、後半になると見た目は変わらないながら、みるみる「変人」としての本性を発揮し始めます。そしてその移り変わりを見事に表現するヴィディヤー演技が冴えわたります。

ただ、特に後半のシャクンタラーは娘の視点であれ、夫の視点であれ、観客はまったく共感できないと思われるのと、後半は逆にシャクンタラーの本職である「暗算の天才」の描写が少なくなっているため、本作を本格的な伝記物と思っていた人にはやや不満が残るかもしれません。一方、娘アヌパマー役のサーニヤー・マルホートラが良い演技だったこともあり、母娘のドラマとしては良くできていたと思います。ただ、ちょっと結末は甘い気はしました。

伝記物としてはややリアリティに欠けるし、ドラマであればはじめからフィクションでも良かった感じで、少し焦点がはっきりしません。しかしながら、ヴィディヤー・バーランのキャラクターを作り出す演技力を見るのには十分。ヴィディヤーのワンマンショーとして観るのがいいかもしれません。

 

音楽
あまり力は入れていないのかと思いましたが、アルバム全体を訊いてみると悪くはありません。曲数は少ないものの作曲はサチン=ジガル。歌手もシュレーヤー・ゴーシャール、スニディ・チャウハーン、モーナーリー・タークルと大物を揃えています。それではこの印象の薄さは?おそらく劇場公開ではなくストリーミング配信になったため、事前の露出が少なかったためではないでしょうか。

「Rani Hindustani」

「Paheli」

 

ヴィディヤー・バーラン   シャクンタラー・デーヴィー役

上にも書きましたが、【Shakuntala Devi】はヴィディヤーのワンマンショー。もはや実在の人物であるシャクンタラー・デーヴィーを描く伝記物でもないかもしれません。ほとんど共感できない人物像をここまで演じ切れるとはさすがにトップクラスの実力です。

 

サーニヤー・マルホートラ  アヌパマー・バナルジー役

【Dangal】【Badhaai Ho】(2018)、【Photograph】(2019)のいずれでもおとなしめの女性役でしたが、今回は母親と真っ向から対立する役。若手女優の中ではもっとも安定している印象です。今後も出演作に困ることはないでしょうが、何か大当たりが欲しいところです。

 

ジーシュー・セーングプター  パリトーシュ・バナルジー役

もともとベンガル映画の俳優ですが、ヒンディー映画にもたまに出演します。ヒンディー映画では【Barfi】(2012)、【Mardaani】(2014)、【Manikarnika】(2019)など女性主人公の優しい夫役で、本作でも同じです。もしかすると、いま最も求められてる男優なのかもしれません。

 

【Shakuntala Devi】
やはりヴィディヤーの演技が観たいという人、ストレート・ヘアのサーニヤーもいいなという人、おすすめです。