【Saand Ki Aankh】

監督:トゥシャール・ヒーラーナンダーニー Tushar Hiranandani
出演:タープスィー・パンヌー、ブーミ・ペードネーカル、ヴィニート・クマール・シン、プラカーシュ・ジャー、シャード・ランダワー

2019年10月25日公開

トレイラー

ストーリー
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ウッタル・プラデーシュ州の農村に暮らすチャンドロー(ブーミ・ペードネーカル)とその義妹のプラカーシー(タープスィー・パンヌー)は典型的なインド農村女性としてその半生を送ってきた。常に働き続け、たくさんの子供を産み、もう50歳を過ぎているのに、家では絶対的な権限を持つ家長のラタン(プラカーシュ・ジャー)の下でろくに外出もさせてもらえない。

あるとき、村に競技射撃を普及させようとしているヤシュパル(ヴィニート・クマール・シン)の下でたまたま銃を手にすることになった2人は驚くべき才能を発揮する。思わぬ逸材に喜ぶヤシュパルの下で2人は密かに射撃の練習を開始し、ますますその才能を伸ばしていく。やがてヤシュパルは練習の成果を示すため試合に出場するよう勧めるが2人は躊躇する。街に出かけるなどラタンら男たちが絶対に許すはずがない。

2人はなんとか有名な寺院への参拝を口実に家を抜け出し、射撃の大会に出場する。まるで場違いに見える2人に対戦相手から観客からも失笑が起きるが、プラカーシーの銃から最初の1発が放たれると・・・

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50歳を過ぎてから競技射撃を始めて、のちに全国大会で活躍するようになった「おばあちゃん射撃選手」の実話。

主演はブーミ・ペードネーカルとタープスィー・パンヌー。2人とも実年齢は30代初くらいなので、20歳以上も上の役を演じることになります。監督のトゥシャール・ヒーラーナンダーニーは【Masti】(2004)、【Housefull 2】(2012)、【Ek Villain】(2014)、【Flying Jatt】(2016)などの脚本を手掛けたベテランの脚本家。監督は本作が初めてです。

最近のインド映画は社会問題を織り込んで作られるものが増えていますが、当然不真面目に扱うことが許されないテーマであるためか、どうしても作品そのものが重苦しいものになりがちです。しかし、本作【Saand Ki Aankh】はインド農村における女性の抑圧というテーマを織り込みながら、「おばあちゃん射撃選手」というユニークな存在によって軽快な作品に仕上げています。

とにかく観て楽しい、そして元気になる作品でした。タイトルの「Saand Ki Aankh」は、射撃の標的の中心「ブルズアイ(Bull’s Eye)」をヒンディー語に直訳するという作中のシーンから取られています。やがて射撃選手として活躍する主人公の2人の女性は農村の他の女性と同じく多くの雑事をこなし、たくさんの子供を産むという半生を送ってきたわけですが、そうした苦労(社会問題でもあります)もあまり重苦しくは描かず、「Jhumma Jhunna」というコミカルでちょっと皮肉の利いた曲にまとめられています。

主人公2人の明るさがいいです。各地で行われる射撃の試合に出場するようになった2人はどこに行っても最初は年齢や恰好など場違いぶりを笑われますが、いざ試合が始まるとバンバンと標的を打ち抜き周囲を黙らせます。それどころか最後には会場の応援を一身に受ける人気者にさえなってしまうところは爽快感たっぷりです。また、旧貴族の家でのパーティーに招待されるという田舎の平民にとってはかなり危機的な状況も、2人は良い意味でのずうずうしさで切り抜けます。

それでも村の女性の抑圧を象徴する家長との対決もあれば、次の世代がもっと容易に活躍できるよう道を開く役割も果たします。まさに身をもって果敢に抑圧と戦った勇気ある女性としても描かれています。

基本的に男たちはろくでなしとして描かれます。村に射撃を普及させようとするヤシュパル、兵役に就き外の世界を見てきたランビールは例外として、女性を働かせて自分たちは何もしないくせに体面ばかりを考えて女性を閉じ込める村の男性たち、対戦相手が田舎の女性というだけでバカにする対戦相手。ただ、最初は理由もなくバカにしていても、彼女たちの射撃の実力を知るやサインをねだりにくる柔軟性を若い男の子たちに与えたのは救いでしょうか。

ブーミ・ペードネーカル、タープスィー・パンヌーという実際には30代の2人がメイクアップや役作りで50~60代に見えるようになったかというと必ずしもそうは見えません。でも、とびきり元気な「おばあちゃん射撃選手」を描くわけで、あまり深くリアリティにこだわらなかったのはむしろ正解だったような気がします。

スポーツ映画のフォーマットで明るく社会問題を取り扱った健康的な良作です。

音楽
【Veere Di Wedding】(2018)の「Veere」や【Race 3】(2018)などを手掛け、全曲の担当作には【Notebook】(2019)があるヴィシャール・ミシュラーが本作でも全曲を手掛けています。

「Jhunna Jhunna」

インド農村、特にそこでの女性の地位についての問題点を集約した曲。男ども働かなさぶりがすごい。

「Womaniya」

「Aasmaa」

ブーミ・ペードネーカル  チャンドロ・トーマル役

これまで1度もゴージャス、セクシーな役をやったことがないブーミ。本作でも実年齢よりも20歳以上もの老け役を好演。外見以上にその言動で老け役になりきっていました。

 

 

 

タープスィー・パンヌー  プラカーシー・トーマル役

こちらはブーミほどには年齢を進めていない感じですが、やはり老け役として合格でしょう。笑わない役が多いタープスィーですが、今回は老け役として素敵な笑顔をたくさん見せていました。

 

 

 

プラカーシュ・ジャー  ラタン役

家長の役。本業は監督、しかも一流の監督ですが、本作は制作には関わっておらず、純粋に俳優として出演しています。しかも、観ていて憎たらしくなるくらい迫真の演技でした。監督演技賞があったら今年は間違いなく受賞でしょう。インド映画はどうしてこんなにも自ら出演したがる監督さんが多いのでしょうか。

 

主人公の2人は実在。数年前にアーミル・カーンが社会問題を鋭く取り上げる人気テレビ番組「Satyameva Jayate」に出演したこともあり、エンドロールではそのときのシーン(リアル)が流れます。

【Saand Ki Aankh】
女性が元気な映画を観たい人、かわいいおばあちゃん映画が見たい人、ジャー監督のやばい演技が見たい人、おすすめです。

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