【Bala】

監督:アマル・コウシク Amar Kaushik
出演:アーユシュマーン・クラーナー、ブーミ・ペードネーカル、ヤーミー・ゴウタム、ソウラーブ・シュクラー、ジャーヴェード・ジャーフリー

2019年11月7日公開

トレイラー

 

ストーリー

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カーンプルに住むバールムクンド(アーユシュマーン・クラーナー)は子供の頃、カッコよくてクラスの人気者。クラスではハゲの先生にイタズラしたり、秀才だが色黒のラティカーをからかったりしていた。

20代半ばになったバールムクンドは若ハゲに悩まされていた。かつての容姿は見る影もなく、あだ名は「バーラー(ハゲ)」に。付き合っていた女性にはフラれ、新たな女性も寄り付かない。仕事は美白クリームのセールスマンをしているが、職場でも若さがないと降格させられる始末。一方ラティカー(ブーミ・ペードネーカル)は弁護士になっていたが、親が持ってくる見合いでは色黒が災いして断られてばかり。

バーラーはありとあらゆる育毛法を試した挙句、すべて効果がないことを悟り、かつらを付ける決心をする。

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髪が薄いことに悩む男の話。たったそれだけなのですが、これまでもそうした「たったそれだけ」をヒット作にしてきたアーユシュマーン・クラーナーが主演。

共演のヤーミー・ゴウタム、ブーミ・ペードネーカルはともにアーユシュマーンとは縁のある女優です。ヤーミーはアーユシュマーンのデビュー作【Vicky Donor】(2012)(ヤーミーはボリウッド・デビュー)で共演、ブーミは自身のデビュー【Dum Laga Ke Haisha】(2015)、続いて【Shubh Mangal Saavdhan】(2017)とアーユシュマーンと最も相性が良いかもしれません。

監督のマル・コウシクは【Stree】(2018)がスマッシュ・ヒットになりましたが、アーユシュマーン・クラーナーとは初めて。

インドに限らず薄毛の問題は男性(女性にはもっと深刻かと思いますが今回は置いておきます)の悩みのタネですが、インドは悩んでいる人が特に多いように思います。人種的なところもあるのかもしれませんし(体毛濃いの裏返し)、食べ物や水質、大気汚染もあるでしょう。まして子供の頃から自分はかっこいいと思っていたのが20代での若ハゲともなれば悩みは非常に深刻です。

薄毛は確かに本人にとっては深刻な悩みであっても、映画的には「テロの予告がなされた」、「娘が誘拐された」、「会社が乗っ取られそう」などと比べると小さな問題にすぎません。しかし、アーユシュマーン・クラーナーは【Bewakoofiyaan】(2014)(カード破産)、【Dum Laga Ke Haisha】(奥さんが自分より学歴上で太っちょ)、【Shubh Mangal Saavdhan】(インポテンツ)、【Badhai Ho】(高齢の母が妊娠)と、そうした日常の問題をテーマにした作品に多く出演しています。

作品はかつらにたどり着くまでの前半とそれ以降の後半に分かれますが、どちらも味わいがあります。前半はとにかく若ハゲに悩みに悩み、ありとあらゆる育毛法を試みます。中には凄まじいものも。また、対人関係では家族、特にハゲが遺伝したと思われる父に八つ当たりします。悩みが対人関係の悪化につながり、さらに悩みが深まっていく悪循環。これまでの作品もそうでしたが、アーユシュマーンはこの負のスパイラルの表現が非常に上手く、観客の視点でみても「それはダメだろう」という感じでどんどんと堕ちていきます。後半はかつらと出会い、短期的には非常に効果があるのですが、そこから急展開していきます。

【Bala】は表のテーマは主人公の薄毛の問題ですが、裏のテーマとしておそらく表のテーマよりも重大な問題が描かれています。それは女性(実は男性もなのですが)の肌色問題。ヒロインの1人ブーミ・ペードネーカル演じるラティカーは成績優秀ですがただ色黒というだけで当時はカッコよかった主人公からはただノートを頼るだけの存在で、弁護士になってからも見合いで不遇をかこっています。

インドでは女性も男性も色白が好まれる風潮があります。ボリウッド俳優を見ればそれはあきらかです。主人公が美白クリームのセールスマンをしている設定は偶然ではありません。最近では色白が好まれる風潮はよろしくないとの意見も出るようになっており、美白クリームの宣伝で美白効果をうたうことは禁止されています。しかし、それでも女性が色黒に悩み色白を悩むのは簡単には収まりそうもありません。【Bala】ではブーミ・ペードネーカルが色黒メイクで出演しています。

【Bala】は頭髪や肌色など外見に関する問題を正面から、しかしコミカルな要素を交えながら描きます。本人たちは真剣なだけに笑ってはいけないのですがつい笑ってしまう、しかし、不真面目な描き方にはならないという非常に微妙なバランスを上手く保ちながら質の高いドラマに仕上げています。

音楽
音楽はサチン=ジガル。「Naah Goriye」だけ、パンジャービー作曲家のジャーニが担当しています。

「Pyaar Toh Tha」

「Tequila」

「Don’t Be Shy Again」

 

アーユシュマーン・クラーナー  バーラーことバールムクンド役

パーソナルな悩みを持つ役が上手いアーユシュマーン。それと重なりますが、「インド地方都市の青年」というヒンディー映画のトレンドに合った役ができるのも人気の秘密かもしれません。過去これまで出演作にはこんな舞台の町がありました。また、デリー出身の役でも下町出身の設定が多いです。

 

 

【Dum Laga Ke Haisha】(2015) ウッタラーカンド州ハリドワール
【Bareilly Ki Barfi】(2017) ウッタル・プラデーシュ州バレーリー
【Dream Girl】(2019)  ウッタル・プラデシュ州マトゥラー
【Bala】(2019)   ウッタル・プラデシュ州カーンプル

 

ブーミ・ペードネーカル  ラティカー役

デビュー作【Dum Laga Ke Haisha】の太っちょ役、【Sonchiriya】(2019)のボロボロになった村の女性役、【Saandh Ki Aankh】のおばあさん役などを見ている人にとっては今回の色黒役もさほど驚きではないかもしれませんが、やはりよくやると思います。ボリウッド女優で一番外見を落とす役をやっているのではないでしょうか。

 

 

ヤーミー・ゴウタム  パリー役

こちらは別の意味でよくこの役を受けたと思います。本作のテーマ上、美白クリームは悪なのですが、ヤーミーはリアルでは美白クリームCM出演で知られており、そのために批判を浴びることもあります。本作でも外見とても大事という女性の役で、ある意味とても適役ではあるのですが。

 

 

本作のテーマは外見第一主義の批判なのですが、その外見に関する問題が起きてしまいました。それはブーミ・ペードネーカルの色黒メイクアップが原因です。ネットでは色黒女性の役は色黒の俳優がやるべきで、色白のブーミがメイクしてやるべきものではないという批判が出ていました。さすがに今ではほとんどありませんが、かつてアメリカなどで問題になった「ブラックフェイス」問題や、こちらは形を変えて今でもある「人種キャスト」問題と似たような構造の問題です。実際には色黒の女優はほとんどいないのが今のボリウッドで、色黒の俳優をキャスティングしたくてもできないのが実情なのですが、インドでの肌色問題はまさに人種問題に通底する深刻さを持つ問題なのかもしれません。

【Bala】
外見の問題について考えてみたい人、アーユシュマーンのハゲ・メイクとブーミの色黒メイクのどちらの技術が高いか見比べてみたい人、ソウラーブ・シュクラーも息子ならハゲて当然と思う人、おすすめです。

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