【Panipat】


監督:アーシュトーシュ・ゴーワリカル Ashtosh Gowarikar
出演:アルジュン・カプール、サンジャイ・ダット、クリティ・サノーン、パドミニー・コールハープレー、クナール・シャシ・カプール、ズィーナト・アマーン

2019年12月6日公開

トレイラー
https://www.youtube.com/watch?v=zpXnmy-6w1g

ストーリー
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18世紀なかばのインド。ムガル帝国は最盛期を過ぎ、インド中西部のマラーターをはじめ、各地の群雄が地方を実質的に支配するようになっていた。そのようななか、アフガニスタン王アフマド・シャー・アブダーリー(サンジャイ・ダット)がインド侵攻を計画していた。

その報を知ったマラーター王国のペーシュワー(宰相)ナーナーサーヘブ(モニーシュ・バーハル)は信頼する配下の武将サーダーシヴ・ラーオ・バウ(アルジュン・カプール)にアフマド・シャーの撃退を命じる。サーダーシヴは途中で同じマラーター同盟の他家や各地の諸侯を説得して増援を得ながら北インドに進軍する。

マラーター軍はかつて2度戦場になったパーニーパットでアフガン軍と激突するが、その直前、マラーター軍は予期しなかった逆境に直面する。
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マラータ王国軍が侵攻してくるアフガン軍を迎え撃ったものの敗れた1761年の第三次パーニーパットの戦いをマラータ王国軍の指揮官をサーダーシヴ・ラーオ・バウを主人公にして描く歴史物。

【Lagaan】(2001)、【Swades】(2004)などスケールの大きな作品で知られ、【Jodhaa Akbar】(2008)、【Mohenjo Daro】(2016)などの歴史物も多いアーシュトーシュ・ゴーワリカル監督の作品。もっとも【Mohenjo Daro】はリティク・ローシャン主演で期待されたもののフロップに終わっています。

作品のテーマである「第三次パーニーパットの戦い」、名前は聞いたことはあってもよほどの歴史好きでないと第何次がいつどこの戦いだったかがわかる人は少ないでしょう。時は1761年1月14日、当時衰退期にあったムガル帝国の首都デリーから北に100キロほどの地で、インドに侵攻してきたアフガン王アフマド・シャー・アブダーリーのアフガン軍とマラーターの武将サーダーシヴ・ラーオ・バウ率いるマラーター連合軍の戦いです。そして第三次がマラーターとアフガンの戦いであることを思い出した人も、それが映画のテーマだと聞くと「なぜ?」と思うかもしれません。なぜならインドにとっては負け戦、それも惨敗レベルの敗北だったからです。

ゴーワリカル監督の前作【Mohenjo Daro】がインダス文明を扱った自由度の高い(フィクション性が高い)ストーリーで、それで評価も興行的にも失敗した反動なのか、【Panipat】は出来事の経過を克明に追う歴史ドキュメンタリーのような作りでした。ですがそのため最後の戦闘シーンまでのほとんど、特に前半は盛り上がりが少なくやや退屈です。

本作のサブタイトルは「大いなる裏切り」。負け戦を題材としているので敗因としての裏切りをテーマにするのは理にかなっていますが、作品では「裏切り」はほとんど中心テーマになっていません。このへんも何が描きたいのかがはっきりしない原因になっています。

そして合戦シーン。大規模な戦いを再現しており一昔前であれば優れたシーンとされたかもしれませんが、最近の時代劇の合戦シーンに比べると、迫力にも個性にも欠けるように思えてしまいます。【Baahubali】のような奇抜な戦術が登場するわけでもなく、戦い自体が劇的に展開するわけでもありません。

アルジュン・カプールは予想よりも好演。サンジャイ・ダットはキャラクターの設定に問題があるものの(後述)さすがの演技。クリティ・サノーンは時代劇にいま一つフィットできなかった印象です。

歴史好き以外にはやや退屈なストーリー展開。しかし、歴史好きには納得行かない歴史考証も多く、位置付けが中途半場な作品に終わってしまいました。

音楽
音楽は作曲家デュオのアジャイ=アトゥル。勇壮な曲が多いですが、やはりゴーワリカル監督作品常連のA.R.ラフマーン作曲に比べるとやや物足りない気がします。

「Mard Maratha」

「Mann Mein Shiva」

「Sapna Hai Sach Hai」

アルジュン・カプール  サーダーシヴ・ラーオ・バウ役

大作時代劇の主役なんて大丈夫かと思ってましたが、意外によく似合っていました。君主役ではなく武将役だったのが良かったこともありますが、マラーターの衣装や髪形がなんとなくそれらしいのが原因でしょうか。【Bajirao Mastani】(2015)のランヴィール・シンより似合っているかも。

 

サンジャイ・ダット  アフマド・シャー・アブダーリー役

史実としてアフマド・シャー・アブダーリーの描き方に問題があるという問題は別にして(後述)、【Agneepath】(2012)のカーンチャー役を思わせる危険な狂気を秘めた役で、本作では一番面白い役でした。

 

 

クリティ・サノーン  パールヴァティー・バーイー役

現代風美人のクリティ、いまひとつ時代劇にフィットしていませんでした。実際にそうだったのかもしれませんが、作中での役割が小さかったのも目立てなかった原因です。もっと出番が多く、【Bajirao Mastani】のマスターニー役のように作り込んだ役であればよかったのかもしれません。

 

パドミニー・コールハープレー、ズィーナト・アマーンら、かつて活躍したものの最近はあまり見かけない女優が出演しているのも本作の特徴です。そしてもっと驚いたのは「裏切り役」アワド太守のシュジャー・ウッダウラー役にクナール・カプール。シャシ・カプールの息子ですが、演劇での活動が主でほとんど映画には出ていませんでした。

 

【Panipat】は時代的には【Bajirao Mastani】(2015)に続く時代の話です。アルジュン・カプール演じる主人公のサーダーシヴ・ラーオは【Bajirao Mastani】でランヴィール・シン演じたバージーラーオ1世の弟チマージー・アッパーの息子。覚えていますか?

【Bajirao Mastani】のチマージー・アッパー

最近のインド映画の歴史物には必ずと言ってもいいほど起きる歴史問題。今回も2つ。1つはラージャスターンのマハーラージャー・スーラジ・マルの描き方が誤っているとして抗議運動が起きました。作中でスーラジ・マルがサーダーシヴ・ラーオ率いるマラーター連合軍に加わらなかったのは史実ですが、その理由が「見返りにアーグラー城を求めたが断られた」となっているのが誤りで、スーラジ・マル、ひいてはジャート・カーストに対する侮辱だとして主張しています。ラージャスターン州の映画館では【Panipat】の上映が中止されるところも出ました。

もう1つはアフガン王アフマド・シャー・アブダーリーの描かれ方。同王は後にアフマド・シャー・ドゥッラーニーとしてドゥッラーニー朝の創始者となる人物。それが【Panipat】でサンジャイ・ダット演じるキャラクターは蛮族の王そのものでした。これでは当然アフガニスタンから抗議が来ます。実は【Panipat】の制作が発表された直後からアフガニスタン政府は外交ルートを通じてその内容(というか同王の描かれ方)の照会を依頼していたそうです。【Padmaavat】(2018)のアラーウッディーン・ハルジーもそうですが、最近のインド映画の歴史物では、インドにやってきたイスラーム王は野蛮で残虐に描かなければならないといった風潮があるようです。ちなみにゴーワリカル監督は【Johdhaa Akbar】(2008)ではムガル帝国のアクバルを英明な君主として描いています。

【Panipat】
歴史物またはインド史好きな人、アルジュン・カプールの熱演を見たい人、サンジャイ・ダットの「ヤバイ人」は好きという人、おすすめです。

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