監督:ハルディク・メヘター Hardik Mehta
出演:サンジャイ・ミシュラー、ディーパク・ドーブリヤール、イーシャー・タルワール
2020年3月6日公開
トレイラー
ストーリー
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スディール(サンジャイ・ミシュラー)はインド映画の脇役俳優。長年脇役一筋で数年前に引退した。しかし、あるとき受けたテレビ番組の取材で自分の出演作が通算499作であることを知る。スディールは生涯出演作品数をキリのいい500作にするため、俳優復帰を決意する。しかし、引退した脇役俳優に今のボリウッドはそんなに甘くなく、すんなり役を与えてくれるプロデューサーや監督はいなかった。「たった1作」のために悪戦苦闘するスディールが知った人生の成功、真の幸せとは?
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シャールク・カーンの制作会社レッド・チリペッパーの作品です。Imdbを見ると制作が2018年となっているので、公開に手こずったようです。それに伴いタイトルも当初の【Kaamyaab】から【Har Kisse Ke Hisse: Kaamyaab】に変更されています。
主演はとぼけた役が持ち味の脇役俳優サンジャイ・ミシュラー。「斜め上」のコメディ・キャラが得意ですが、シリアスもできる名俳優は本作にぴったりです。共演はゲスト的な出演でしたが、【Prem Ratan Dhan Payo】(2015)(『プレーム兄貴、王になる』)などのディーパク・ドーブリヤール。監督のハルディク・メヘターは脚本家出身で【Lootera】(2013)、【Queen】(2013)の脚本監修や【Trapped】(2017)の脚本、ドキュメンタリー作品や短編の監督をやり、長編作品では本作フィクションでは本作がデビューになります。
派手ではないものの、笑いあり、哀愁ありの素敵な作品でした。きっちりとまとまった脚本に、哀愁漂う雰囲気を出した演出、主演の好演ががっちりと噛み合って、映画制作のお手本のようでした。
作品のオープニング・タイトルと本編の最初の部分は必見です。オープニング・タイトルはいわば主人公のフィルモグラフィーで、昔のインド映画ポスター(もちろん架空)が次々と映し出され、そのそれぞれに主人公が脇役として出演していたことがわかるようになっています。続いて本編に入ると、現代のテレビ番組で主人公の出演シーンが紹介されるのですが、あたかも本当に昔の作品から切り取ってきたかのように再現していて非常に凝っていて、ユーモラスかつハイセンスです。
そこからは主人公の「500作目」を目指す悪戦苦闘が続くのですが、かつて活躍した脇役俳優などには誰も見向きもしてくれない今の業界の世知辛さあり、実際にブランクのためか俳優としての力が落ちてしまっている老いの悲しさあり、そして素晴らしいラストありと、いろいろな感情がいっぱいです。主人公もサンジャイ・ミシュラーが演じているだけあって基本はひょうひょうとしていますが、それでもときには激情がほとばしるところもあり、観ているほうも心を揺さぶられます。
主人公の代表作での有名セリフは「Just enjoying life, aur option kya hai(人生を楽しむ。他になにがある?)」(もっとも作中[架空作中]ではこれを言った直後に撃たれて死ぬ役なのですが)です。果たして主人公は脇役一筋の人生を楽しめたのか?そして500作目の出演はなるのか?魅力的な脚本と優れた演技で魅せる優れた作品です。
音楽
【Mukkabaaz】(2017)、【Judgementall Hai Kya】(2019)など、最近の作品で作曲を手掛けるラチター・アローラーの作曲です。スネーハー・カンワルカル、ジャスリーン・ローヤルなどボリウッドでは女性作曲家の活躍が増えてきました。
「Tim Tim Tim」
80年代を代表する作曲家バッピー・ラーヒリーの曲が入っただけで、架空の過去作品のリアリティーが増します。
「Paaon Bhaari」
「Sikandar」
サンジャイ・ミシュラー スディール役
一度は引退したベテラン脇役俳優の役ですが、振り返ってみるとこの人以外にはいないのではないかと思うほどのハマり役でした。一部のシーンを除くと主人公は表向きはコミカルで哀しみをストレートに表現しません。しかし、それでいてどこからか哀しみが伝わってくる素晴らしい演技でした。ただし、作中の主人公は脇役一筋であるのに対し、サンジャイ・ミシュラーはフィルムフェア最優秀主演男優賞(批評家)受賞の【Ankhon Dekhi】(2014)など主演作や、【Masaan】(2015)のような助演作もあります。
イーシャー・タルワール イーシャー役
南インド映画を経て【Tubelight】(2017)でヒンディー映画デビュー【Article 15】(2019)ではアーユシュマーン・クラーナーの妻役。今回は主人公の住むビルに引っ越してきた女優死亡の女性役。ただ、これまでどの役もどこか存在感に欠ける印象です。
ディーパク・ドーブリヤール グラーティー役
【Prem Ratan Dhan Payo】(2015)、【Hindi Medium】(2017)など、「主人公の友人」役で知られていますが、今回はちょっとズルいところもある映画監督の役。主人公の500作目の出演を快く引き受けてくれますが・・。出演はさほど多くなく、ゲスト出演のような感じでした。
本作【Har Kisse Ke Hisse Kaamyaab】は主人公がそうであるようにボリウッドの脇役賛歌でもあります。そのため、実在の往年の脇役俳優が多数出演しています。その中でも、いまだ現役で主人公の商売仇とも言えるベテラン俳優役はアヴァタール・ギル。こちらは実際に現役で【Airlift】(2016)や【Wazir】(2016)などの有名作にも出演しています。他にはビジュー・コーテー。有名女優シュバー・コーテーの弟で、自身も長く脇役俳優として活躍し、【Sholay】(1975)ではガッバル・シンの手下カーリア役。
本作の粗筋を聞いたときに思い出したのがハリウッド映画の『Mr.3000』(2004年)。あまり知られてはいないと思いますが。大リーグで3000本ヒットの偉業を達成した引退した主人公が、10年後に記録の誤りで実際には3千本に5本足りていないことを知り、無謀にも現役復帰するものの・・・という話。
本作の主人公は通作500作目の出演を目指しますが、現実のインド映画俳優はどれくらいの作品に出ているのか調べてみました。本作と同じくImdbを利用しましたが、全員を調べてはいないので網羅的なものではありません。(本数は2020年4月現在)
ボリウッドに限定しなければ、出演数でギネス世界記録保持者のテルグ映画俳優ブラフマーナンダムの1164作!ヒンディー映画だと、思いついた人をざっと調べてみると、
シャクティ・カプール 670作
アヌパム・ケール 428作
カーダル・カーン 418作
ミトゥン・チャクラボルティ 373作
ジョニー・リーヴァル 313作
アムリーシュ・プリー 303作
こうすると本作主人公の500作というのはなかなかの数字であることがわかります。
【Har Kisse Ke Hisse: Kaamyaab】
サンジャイ・ミシュラーの七変化を見たい人、「500作目」をどのようなオチにするか気になる人、ちょっと物悲しくもほのぼのでもある雰囲気を味わいたい人、おすすめです。