観たい!2020年12月編

劇場公開
【Indoo Ki Jawani】(12月11日公開予定)

監督・アビル・セーングプター Abir Sengupta
出演:キアーラー・アードヴァーニー、アーディティヤ・シール

トレイラー

いい出会いがないと嘆く女性がデート・アプリに登録してみたら、やってきたのはすごいイケメン。しかし、彼の正体は・・・というラブコメ。主演は【Good Newwz】(2019)に続いてコメディづいてるキアーラー・アードヴァーニー。共演は【Student of the Year 2】(2019)でタイガーのライバル役だったアーディティヤ・シール。

 

【Shakeela】(12月25日公開予定)

監督:インドラジート・ランケーシュ Indrajit Lankesh
出演:リチャー・チャッダー、ラジーヴ・ピッライ、パンカジ・トリパーティー

ティーザー

 

ビデオ配信
【Torbaaz】(12月11日、ネットフリックス・インディアで配信開始)
監督:ギリーシュ・マリク Girish Malik
出演:サンジャイ・ダット、ナルギス・ファークリー、ラーフル・デーヴ

トレイラー

アフガニスタンの難民キャンプで子供たちがテロリストによって自爆テロの駒にされるのを防ぐため、子供たちにクリケットを教え始めるインド軍の軍人の話。出演はサンジャイ・ダット、ナルギス・ファークリー。もちろんアフガニスタンでのロケはありませんが、代わりにキルギスなどでのロケがあったようです。

 

【Durgamati – The Myth】(12月11日、アマゾン・プライム・ビデオ・インディアで配信開始)
監督:G・アショーク G. Ashok
出演:ブーミ・ペードネーカル、アルシャド・ワールシー、マヒー・ギル、ジーシュー・セーングプター

トレイラー

テルグとタミルのマルチリンガル映画として作られたアヌシュカ・シェッティー主演【Bhaagamathie】(2018)を監督G・アショーク自身がヒンディー・リメイク。アヌシュカ・シェッティの代わりはなかなか難しいと思いますが、ヒンディー版の主演はブーミ・ペードネーカル。なかなか良いチョイスではないでしょうか。

 

【Coolie No.1】(12月25日、アマゾン・プライム・ビデオ・インディアで配信開始)
監督:ダヴィド・ダワン David Dhawan
出演:ヴァルン・ダワン、サーラー・アリー・カーン、パレーシュ・ラーワル、ジャーヴェード・ジャーフリー

トレイラー

1990年代の「コメディ・キング」ダヴィド・ダワン監督が自身のヒット・コメディをリメイク。しかも息子のヴァルン・ダワンが主演です。いわゆる「ナンバルワン」シリーズの1作で「クーリー」とは肉体労働者のこと。かつてゴーヴィンダーがやった役をヴァルン、カリシュマー・カプールの役をサーラー・アリー・カーン。なかなか難しそうですが期待。

 

【Lahore Confidential】(12月11日、Zee5で配信開始)
監督:クナール・コーホリー Kunal Kohli
出演:リチャー・チャッダー、カリシュマー・タンナー、アルノーダイ・シン

かつて【Hum Tum】(2004)、【Fanaa】(2006)などのヒット作を撮りましたが、その後の作品では評価を落としているクナール・コーホリー監督がスパイ・スリラーを作ってきました。なかなか濃い人たちが集まったキャストで、スパイ物としては心配になるレベルですがどうでしょうか。

 

【AK vs AK】(12月24日、ネットフリックスで配信開始)

監督:ヴィクラマーディティヤ・モートーワーネー Vikramaditya Motowane
出演:アニル・カプール、アヌラーグ・カシュヤプ

トレイラー

ボリウッドの大物が実名で登場するドキュメンタリー風フィクション。アニル・カプールとアヌラーグ・カシュヤプがふとした出来事から対立し、アニル・カプールの娘のソーナム・カプール誘拐事件に発展するという話。監督は【Queen】(2014)、【Udta Punjab】(2016)などの制作で知られるヴィクラマーディティヤ・モートーワーネー。タイトルは二人の同じイニシャルから。

 

シリーズ
【Bhaag Beanie Bhaag】(12月4日、ネットフリックスで配信開始)
監督:デビー・ラーオ Debbie Raoほか
出演:スワラー・バースカル、アーディティヤ・ベールネーカル、ベートヴィー・カーリヤー

トレイラー

結婚を目前に突如スタンドアップ・コメディアンになろうと決心をする女性を描くドラマ。主演はスワラー・バースカル。【Raanjhana】(2013)、【Prem Ratan Dhan Payo】(2016)(『プレーム兄貴、王になる』)の脇役が有名ですが、主演も多くこなしているので問題ないはず。

【Shakuntala Devi】

監督:アヌ・メーノーン Anu Menon
出演:ヴィディヤー・バーラン、サーニヤー・マルホートラ、ジーシュー・セーングプター、アミト・サード

2020年7月31日公開(アマゾン・プライム・ビデオ)

トレイラー

ストーリー
*****************************************
1930年代、バンガロール郊外の農村に生まれたシャクンタラー・デーヴィーは幼い頃から暗算の非凡な才能を示していた。彼女の父親はシャクンタラーを学校に行かせず、彼女の暗算を見世物にして収入を得るようになっていた。成長したシャクンタラー(ヴィディヤー・バーラン)は相変わらず暗算ショーに出演していたが、婚約者との喧嘩別れをきっかけにして家を飛び出し、ロンドンに渡る。

ロンドンでも彼女のショーは成功し、有名になった彼女は興行で世界中を飛び回るようになる。そんな中で出会ったパリトーシュ(ジーシュー・セーングプター)と結婚し、やがて娘が生まれる。シャクンタラーのビジネスはますます成功し、大きな名声と富を築いたが、娘アヌパマー(サーニヤー・マルホートラ)との関係で悩みを抱えることになる。
*****************************************

暗算の天才で「人間コンピューター」と呼ばれたシャクンタラー・デーヴィーの伝記映画です。インドで数というとインド人数学者ラーマーヌジャンの伝記映画【The Man Who Knew Infiity】(2015)(『奇蹟がくれた数式』)が思い浮かびますが、あちらが数学者なのに対してこちらはひたすら暗算。ただし、ラーマーヌジャンの数学も当時の一般的な数学者は思いも付かないような発想から出発していたというので根底では通ずるところがあるのかもしれません。

シャクンタラー役に演技力ではトップクラスのヴィディヤー・バーラン。ストーリー上で重要な役割を果たす彼女の娘アヌパマー役に【Dangal】(2016)(『ダンガル きっと、つよくなる』)のサーニヤー・マルホートラ。シャクンタラーの夫役に最近は女性主人公の夫役が多いジーシュー・セーングプター。監督のアヌ・メーノーンはこれまで【London, Paris, New York】(2012)、【Waiting】(2016)などを撮っています。

最初にこの作品の内容を聞いたとき、確かにシャクンタラー・デーヴィーはある程度の有名人ですが、ひたすら暗算の天才という印象しかない人物を描いて果たして映画になるのかと思いました。しかも暗算は当然のことながら彼女の頭の中だけで起きていることなので、これほど映像化が難しい題材もないでしょう。

脚本も手掛けたメーノーン監督は、主にシャクンタラーと彼女の娘アヌパマー(こちらも実在で実名)との関係を話の中心にすることで、「暗算しかない」問題を克服しています。作品はいきなり、娘のアヌパマーが母親のシャクンタラーを金銭問題に関して訴えるという劇的なシーンから始まります。母娘関係がどうしてここまでこじれてしまったのか。そこには自身の幼少時の経験の影響を受けて形成されたシャクンタラーの性格が関わっていることが次第に明らかになっていきます。

前半は「暗算の天才」が幼い頃からその才能を表し、やがて(ある事情もあって)ヨーロッパに渡って自ら出演する暗算ショーで有名になるまでの波乱万丈のサクセス・ストーリーで、娯楽作としてはこちらのほうが楽しめます。しかし、実は話の本番は後半から。前半はふつうに明るい女性というヴィディヤー=シャクンタラーが、後半になると見た目は変わらないながら、みるみる「変人」としての本性を発揮し始めます。そしてその移り変わりを見事に表現するヴィディヤー演技が冴えわたります。

ただ、特に後半のシャクンタラーは娘の視点であれ、夫の視点であれ、観客はまったく共感できないと思われるのと、後半は逆にシャクンタラーの本職である「暗算の天才」の描写が少なくなっているため、本作を本格的な伝記物と思っていた人にはやや不満が残るかもしれません。一方、娘アヌパマー役のサーニヤー・マルホートラが良い演技だったこともあり、母娘のドラマとしては良くできていたと思います。ただ、ちょっと結末は甘い気はしました。

伝記物としてはややリアリティに欠けるし、ドラマであればはじめからフィクションでも良かった感じで、少し焦点がはっきりしません。しかしながら、ヴィディヤー・バーランのキャラクターを作り出す演技力を見るのには十分。ヴィディヤーのワンマンショーとして観るのがいいかもしれません。

 

音楽
あまり力は入れていないのかと思いましたが、アルバム全体を訊いてみると悪くはありません。曲数は少ないものの作曲はサチン=ジガル。歌手もシュレーヤー・ゴーシャール、スニディ・チャウハーン、モーナーリー・タークルと大物を揃えています。それではこの印象の薄さは?おそらく劇場公開ではなくストリーミング配信になったため、事前の露出が少なかったためではないでしょうか。

「Rani Hindustani」

「Paheli」

 

ヴィディヤー・バーラン   シャクンタラー・デーヴィー役

上にも書きましたが、【Shakuntala Devi】はヴィディヤーのワンマンショー。もはや実在の人物であるシャクンタラー・デーヴィーを描く伝記物でもないかもしれません。ほとんど共感できない人物像をここまで演じ切れるとはさすがにトップクラスの実力です。

 

サーニヤー・マルホートラ  アヌパマー・バナルジー役

【Dangal】【Badhaai Ho】(2018)、【Photograph】(2019)のいずれでもおとなしめの女性役でしたが、今回は母親と真っ向から対立する役。若手女優の中ではもっとも安定している印象です。今後も出演作に困ることはないでしょうが、何か大当たりが欲しいところです。

 

ジーシュー・セーングプター  パリトーシュ・バナルジー役

もともとベンガル映画の俳優ですが、ヒンディー映画にもたまに出演します。ヒンディー映画では【Barfi】(2012)、【Mardaani】(2014)、【Manikarnika】(2019)など女性主人公の優しい夫役で、本作でも同じです。もしかすると、いま最も求められてる男優なのかもしれません。

 

【Shakuntala Devi】
やはりヴィディヤーの演技が観たいという人、ストレート・ヘアのサーニヤーもいいなという人、おすすめです。

【Dil Bechara】

監督:ムケーシュ・チャーブラー Mukesh Chhabra

出演:スシャーント・シン・ラージプート、サンジャナー・サーンギー、サーヒル・ヴァイド、サースワター・チャタルジー、スワスティカー・ムカルジー、サイフ・アリー・カーン(特別出演)

2020年7月24日公開(ディズニー+ホットスター)

トレイラー

ストーリー
*************************************
製鉄の街ジャムシェードプルに住む大学生のキズィー(サンジャナー・サーンギー)は甲状腺ガンを患っており、背中には小型の酸素ボンベを背負い、鼻には酸素パイプを挿入したまま過ごさなければならない。本当は普通の女の子として学生生活を送り、同世代の男の子とデートしたりしてみたいがとても無理と諦めている。そんなキズィーの趣味は音楽。特にアビマニュ・ヴィールという歌手の歌詞が未完の曲がお気に入りだ。いつか彼に会ってどうしてこの曲が未完なのかを聞いてみたいと願っている。

キズィーはある日、マニーことイマヌエル・ラージクマール・ジュニア(スシャーント・シン・ラージプート)と出会う。マニーはかつて骨肉腫で足を切断して義足だが、誰にも負けない明るい性格だ。ラジニカーントの大ファン。緑内障で映画監督志望の友人ジェイピー(サーヒル・ヴァイド)とラジニ風の映画を自身の主演で撮ろうとしており、キズィーにヒロインとして出演してくれと頼み込む。楽しく撮影が進むうち、いつしかキズィーも明るさを取り戻し、二人は恋に落ちていた。

あるときキズィーはマヌーからアビマニュ・ヴィールと連絡が取れたと知らされる。もしキズィーがフランスに来れば会ってくれるそうだ。キズィーはどうしてもフランスに行きたがるが、彼女の体調を心配する両親は強硬に反対する。
************************************

6月に自殺したスシャーント・シン・ラージプートの遺作になってしまいました。

ハリウッド映画『きっと、星のせいじゃない』の原作であるジョン・グリーンの小説『さよならを待つふたりのために』(原題は映画、小説ともに The Fault in Our Stars)の映画化です。監督のムケーシュ・チャーブラーはキャスティング・ディレクターの出身で本作が監督デビュー。【Badrinath Ki Dulhania】(2017)監督のシャシャンク・カイターンが翻案・脚本を担当していることも注目です。当初、タイトルは登場人物の名前を並べた【Kizie Aur Manny】でしたが、後に【Dil Bechara】に変更になりました。主演はスシャーントと大役は本作が初めてのサンジャナー・サーンギー。

ヒンディー映画における二役と不治の病の多さは有名です。個人的には二役は問題ないのですが、不治の病はどうも苦手です。病気や死を見つめる優れた作品がある一方で、ほとんどの場合、ストーリー展開のウルトラCとして脈絡なしにストーリーに持ち込まれる作品が少なくないからです。登場人物を死なせることで話をまとめるなど、悪く言うと「オチのために殺すの?」というようなものすらあります。

ですから【Dil Bechara】がガン患者同士のラブストーリーと聞いたときにはなかば反射的に「苦手なヤツだ」と思ってしまいましたが、実際に観てみるとまったく予想と違いました。主人公2人の病気が作品に死の影を落としているのは確かですが、他の多くの作品のように死ぬための病気ではなく、生きることを強調するための病気であるように感じました。2人は恋をし、映画の撮影をし、パリに行き、とやりたかったことをすべてやり遂げます。けっして「病気でかわいそう」という作品ではありません。

マニーとキズィーの二人を中心に、マニーの友人ジェイピー、キズィーの両親らの間で恋人同士、親友同士、親子の物語が紡ぎだされます。その1つ1つはさほど目新しいものではありませんが、軽妙なセリフや出演者の明るい演技によって全体としてオシャレでとても魅力的な作品になっています。

もっとも、キズィーが大好きなアビマニュ・ヴィールの未完の歌詞のエピソード。これだけは意味がわかりません。二人がパリに行くきっかけとなるのですが、それ以外に何か意味があるのかわかりません。原作にもある設定のようですが、少なくともこちらでは説明不足でわけがわかりません。

「前向きな」病気モノである【Dil Bechara】。できれば現実世界におけるスシャーントの死を背景に観たくはありませんでした。せめてこの作品が彼の死を覆ってくれるように祈るばかりです。

 

音楽
音楽はA.R.ラフマーン。ヒンディー語映画の音楽は【Beyond the Clouds】(2018)、【Shikara】(2020)など成り立ちが特殊なものを除くと結構久しぶりで、【Mom】(2017)以来。歌手もシュレーヤー・ゴーシャール、スニディ・チャウハーン、アリジート・シン、モーヒト・チャウハーンなど豪華な顔ぶれです。そして各曲ともすごくいいです。

「Dil Bechara」

振り付けはファラー・カーン。

 

「Main Tumhara」

 

「Taare Ginn」

 

「A Music Tribute To Sushant Singh Rajput」

スシャーントの死を悼んで本作の参加歌手によって作られたビデオ。

 

スシャーント・シン・ラージプート マニー役

遺作となるとどんな役でももはや普通に見てはもらえないかもしれませんが、【Dil Bechara】のスシャーントは一番スシャーントらしい役でした。どんな相手役とも相性が良くなれる親しみやすさで、特に恋愛モノで発揮されたスシャーントの魅力でした。

 

 

サンジャナー・サーンギー  キズィー役

主役での出演は初めてですが、【Rockstar】(2011)のチョイ役でデビュー、その後【Hindi Medium】(2017)でミーターの若い頃の役で出演しています。ガール・ネクスト・ドアのタイプですが、本作では病気でちょっと屈折したところもある役を上手く演じていました。ブレイク作品がいわく付きになって大変かもしれませんが、今後の出演で個性を発揮していければ面白い存在になるかもしれません。

 

シャシャンク・カイターンが脚本を担当しているためか、【Badrinath Ki Dulhania】で主人公の親友役で好演したサーヒル・ヴァイドがやはり主人公の親友役。出色のキャストはキズィーの両親。【Kahaani】(2012)(『女神は二度微笑む』)のボブ役で有名なサスワター・チャタルジー、【Detective Byomkesh Bakshy!】(2015)の謎の女性役のスワスティカー・ムカルジーのベンガリーの個性派俳優を揃えました。マニーの祖母役にマラヤーラム映画などで祖母役の出演が多いスバーラクシュミー。

作品の舞台は製鉄業で知られるジャールカンド州ジャムシェードプル。インドを代表する大財閥であるタタの本業は製鉄業で、製鉄会社タタ・スチールはジャムシェードプルを本拠にしています。マニーとキズィーが通院する病院もタタ系列の病院です。ジャムシェードプルが舞台のインド映画といえば、【Udaan】(2010)が思い出されます。

【Dil Bechara】
笑って泣いてスシャーントの死を悼みたい人、おすすめです。