【Dil Bechara】

監督:ムケーシュ・チャーブラー Mukesh Chhabra

出演:スシャーント・シン・ラージプート、サンジャナー・サーンギー、サーヒル・ヴァイド、サースワター・チャタルジー、スワスティカー・ムカルジー、サイフ・アリー・カーン(特別出演)

2020年7月24日公開(ディズニー+ホットスター)

トレイラー

ストーリー
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製鉄の街ジャムシェードプルに住む大学生のキズィー(サンジャナー・サーンギー)は甲状腺ガンを患っており、背中には小型の酸素ボンベを背負い、鼻には酸素パイプを挿入したまま過ごさなければならない。本当は普通の女の子として学生生活を送り、同世代の男の子とデートしたりしてみたいがとても無理と諦めている。そんなキズィーの趣味は音楽。特にアビマニュ・ヴィールという歌手の歌詞が未完の曲がお気に入りだ。いつか彼に会ってどうしてこの曲が未完なのかを聞いてみたいと願っている。

キズィーはある日、マニーことイマヌエル・ラージクマール・ジュニア(スシャーント・シン・ラージプート)と出会う。マニーはかつて骨肉腫で足を切断して義足だが、誰にも負けない明るい性格だ。ラジニカーントの大ファン。緑内障で映画監督志望の友人ジェイピー(サーヒル・ヴァイド)とラジニ風の映画を自身の主演で撮ろうとしており、キズィーにヒロインとして出演してくれと頼み込む。楽しく撮影が進むうち、いつしかキズィーも明るさを取り戻し、二人は恋に落ちていた。

あるときキズィーはマヌーからアビマニュ・ヴィールと連絡が取れたと知らされる。もしキズィーがフランスに来れば会ってくれるそうだ。キズィーはどうしてもフランスに行きたがるが、彼女の体調を心配する両親は強硬に反対する。
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6月に自殺したスシャーント・シン・ラージプートの遺作になってしまいました。

ハリウッド映画『きっと、星のせいじゃない』の原作であるジョン・グリーンの小説『さよならを待つふたりのために』(原題は映画、小説ともに The Fault in Our Stars)の映画化です。監督のムケーシュ・チャーブラーはキャスティング・ディレクターの出身で本作が監督デビュー。【Badrinath Ki Dulhania】(2017)監督のシャシャンク・カイターンが翻案・脚本を担当していることも注目です。当初、タイトルは登場人物の名前を並べた【Kizie Aur Manny】でしたが、後に【Dil Bechara】に変更になりました。主演はスシャーントと大役は本作が初めてのサンジャナー・サーンギー。

ヒンディー映画における二役と不治の病の多さは有名です。個人的には二役は問題ないのですが、不治の病はどうも苦手です。病気や死を見つめる優れた作品がある一方で、ほとんどの場合、ストーリー展開のウルトラCとして脈絡なしにストーリーに持ち込まれる作品が少なくないからです。登場人物を死なせることで話をまとめるなど、悪く言うと「オチのために殺すの?」というようなものすらあります。

ですから【Dil Bechara】がガン患者同士のラブストーリーと聞いたときにはなかば反射的に「苦手なヤツだ」と思ってしまいましたが、実際に観てみるとまったく予想と違いました。主人公2人の病気が作品に死の影を落としているのは確かですが、他の多くの作品のように死ぬための病気ではなく、生きることを強調するための病気であるように感じました。2人は恋をし、映画の撮影をし、パリに行き、とやりたかったことをすべてやり遂げます。けっして「病気でかわいそう」という作品ではありません。

マニーとキズィーの二人を中心に、マニーの友人ジェイピー、キズィーの両親らの間で恋人同士、親友同士、親子の物語が紡ぎだされます。その1つ1つはさほど目新しいものではありませんが、軽妙なセリフや出演者の明るい演技によって全体としてオシャレでとても魅力的な作品になっています。

もっとも、キズィーが大好きなアビマニュ・ヴィールの未完の歌詞のエピソード。これだけは意味がわかりません。二人がパリに行くきっかけとなるのですが、それ以外に何か意味があるのかわかりません。原作にもある設定のようですが、少なくともこちらでは説明不足でわけがわかりません。

「前向きな」病気モノである【Dil Bechara】。できれば現実世界におけるスシャーントの死を背景に観たくはありませんでした。せめてこの作品が彼の死を覆ってくれるように祈るばかりです。

 

音楽
音楽はA.R.ラフマーン。ヒンディー語映画の音楽は【Beyond the Clouds】(2018)、【Shikara】(2020)など成り立ちが特殊なものを除くと結構久しぶりで、【Mom】(2017)以来。歌手もシュレーヤー・ゴーシャール、スニディ・チャウハーン、アリジート・シン、モーヒト・チャウハーンなど豪華な顔ぶれです。そして各曲ともすごくいいです。

「Dil Bechara」

振り付けはファラー・カーン。

 

「Main Tumhara」

 

「Taare Ginn」

 

「A Music Tribute To Sushant Singh Rajput」

スシャーントの死を悼んで本作の参加歌手によって作られたビデオ。

 

スシャーント・シン・ラージプート マニー役

遺作となるとどんな役でももはや普通に見てはもらえないかもしれませんが、【Dil Bechara】のスシャーントは一番スシャーントらしい役でした。どんな相手役とも相性が良くなれる親しみやすさで、特に恋愛モノで発揮されたスシャーントの魅力でした。

 

 

サンジャナー・サーンギー  キズィー役

主役での出演は初めてですが、【Rockstar】(2011)のチョイ役でデビュー、その後【Hindi Medium】(2017)でミーターの若い頃の役で出演しています。ガール・ネクスト・ドアのタイプですが、本作では病気でちょっと屈折したところもある役を上手く演じていました。ブレイク作品がいわく付きになって大変かもしれませんが、今後の出演で個性を発揮していければ面白い存在になるかもしれません。

 

シャシャンク・カイターンが脚本を担当しているためか、【Badrinath Ki Dulhania】で主人公の親友役で好演したサーヒル・ヴァイドがやはり主人公の親友役。出色のキャストはキズィーの両親。【Kahaani】(2012)(『女神は二度微笑む』)のボブ役で有名なサスワター・チャタルジー、【Detective Byomkesh Bakshy!】(2015)の謎の女性役のスワスティカー・ムカルジーのベンガリーの個性派俳優を揃えました。マニーの祖母役にマラヤーラム映画などで祖母役の出演が多いスバーラクシュミー。

作品の舞台は製鉄業で知られるジャールカンド州ジャムシェードプル。インドを代表する大財閥であるタタの本業は製鉄業で、製鉄会社タタ・スチールはジャムシェードプルを本拠にしています。マニーとキズィーが通院する病院もタタ系列の病院です。ジャムシェードプルが舞台のインド映画といえば、【Udaan】(2010)が思い出されます。

【Dil Bechara】
笑って泣いてスシャーントの死を悼みたい人、おすすめです。

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