【Panga】

監督:アシュヴィニー・アッヤル・ティワーリー Ashwiny Iyer Tiwari
出演:カンガナー・ラーナーウト、リチャー・チャッダー、ジャシー・ギル、ニーナー・グプター

2020年1月24日公開

トレイラー

ストーリー
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ジャヤー・ニガム(カンガナー・ラーナーウト)は女子カバディの元インド代表キャプテン。プラシャーント(ジャシー・ギル)との結婚と出産を機に引退し、32歳の今はエンジニアである夫と同じインド鉄道に勤めている。

ある日、父から母の現役時代の偉業を聞かされた息子のアディは、母に現役復帰を勧める。最初は無理だと断っていたジャヤーだが、夫や現役時代のチームメートで今はコーチをしているミーナル(リチャー・チャッダー)の後押しもあり、復帰に向けたトレーニングを開始する。
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カンガナー・ラーナーウトが結婚・出産後に現役復帰してインド代表入りをする女性役。

監督は【Nil Battey Sannata】(2016)、【Bareilly Ki Barfi】(2017)のアシュヴィニー・アッヤル・ティワリー。実生活で監督の夫で【Dangal】(2016)(『ダンガル きっと、つよくなる』)、これから日本公開の【Chhichhore】(2019)(『きっと、またあえる』)監督のニテーシュ・ティワーリーが脚本です。

カンガナーの夫役にはパンジャービー歌手でパンジャービー映画俳優で【Happy Phirr Bhag Jayegi】(2018)でボリウッド・デビューも果たしているジャシー・ギル。個性派脇役女優のリチャー・チャッダー、【Bhadaai Ho】(2018)のニーナー・グプターと脇役も充実しています。

【Panga】はカバディを題材にしたスポーツ物という体裁ではあるものの、実際には女性のキャリアと家族との関係を描く家族ドラマ、社会ドラマでした。本作でカンガナーが演じるジャヤーの職業を他のものに代えても十分に成り立ちます。

ジャヤーの夫プラシャーントも息子のアディも世間的な基準からみると「出来た」家族で、ジャヤーの現役復帰を後押しします。しかしそれでも実際にジャヤーがコルカタのチームでプレーすることになり単身赴任するとなると、とたんに家事の不安が出てきます。ジャヤーのほうも家のことが気になり、残った夫と息子は気持ちでは理解していても、上手くいかない家事にイライラを募らせます。

ストーリーは後半、現役復帰した選手としてのジャヤーに焦点が移っていくため、家族の問題については作品のなかで必ずしも明確な答えが出るわけではありません。しかし、世の中の現実の女性の問題でも、どの家庭も満点の答えが出せるものではありません。本作のように答えが出ないままでなんとかやっているのを描くほうがより現実的です。

主人公は元カバディ・インド代表キャプテンですが、引退後とはいえスーパー・ヒロインの感じはまったくなく、普通の母親であり勤め人である女性です。復帰を目指している最中もその雰囲気を残しているのは演出でしょう。それによって非常にきめ細やかな家族ドラマになっています。

「ふつうじゃない」ヒロインが上手いカンガナーですが、ふつうのヒロインをやらせても上手いのだということがわかりました。一方でスポーツ選手の役ができるとも思っていませんでしたが、意外としっかりやっています。

派手さはありませんが、監督の過去作品にもみられるような人物描写や感情描写の巧みさがよくわかる佳作です。

音楽
最近は超ヒット作品はないものの、【Manikarnika: The Queen of Jhansi】(2019)(『マニカルニカ』)、【Saaho】(2019)(『サーホー』)など、安定して良い音楽を作ってくる3人組ユニットのシャンカル-エフサーン-ローイが音楽。

「Panga」

「Bibby」

「Dilne Kaha」

ジャシー・ギル本人が歌っています。

 

カンガナー・ラーナーウト  ジャヤー役
【Queen】(2014)もあるので普通の女性の役ができるのはわかってはいるものの、最近は【Manikarnika】(2019)、【Judgementall Hai Kya】(2019)など凄みのある役が続いていたので、本作の役は新鮮でした。またしばらくは強烈な役が続くようなので、こういうカンガナーを見ておくにはいい作品になりました。

ジャシー・ギル  プラシャーント役
(写真はこの作品のものではありません)

ディルジート・ドーサンジもそうですが、パンジャービー歌手兼俳優が活躍しているのは女性が主人公の作品が増えているなかでその相手役に向いているためではないかと推測しています。ベッドでカンガナーに蹴っ飛ばされるところから始まる作品で好演でした。

 

カンガナーと並ぶ天才肌の女優リチャー・チャッダー、【Badhaai Ho】(2018)の高齢妊娠をする役が評判になったニーナー・グプター、豪華な脇役でした。

本作の主人公ジャヤーは復帰するにあたり、現在自分が勤めるインド鉄道のチームに入ることを目指しました。「世界最大の雇用者」とされるインド鉄道は様々なスポーツ・チームを有しています。クリケットの元インド代表キャプテン、M.S.ドーニーを描いた【M.S. Dhoni: The Untold Story】(2016)でも、若き日のドーニーがインド鉄道のチームに入っていたことが紹介されていました。

【Panga】
ふつうの役のカンガナーが見たい人、スポーツ選手のカンガナーが見たい人、カバディ映画は観たいという人、家事はもっと分担すべきだと思う人、おすすめです。

【Chhapaak】

監督:メーグナー・グルザール Meghna Gulzar
出演:ディーピカー・パードゥコーン、ヴィクラント・マイシー

2020年1月10日公開

トレイラー

ストーリー
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マルティ(ディーピカー・パードゥコーン)はデリーの女子高に通うごく普通の女子学生だった。しかし、ある日のこと白昼の街中でアシッド・アタック(酸攻撃)に遭って顔面にひどいやけどを負い、その人生は一変する。

マルティは顔面の形成手術を受けながら、現実と折り合いを付けつつ事件の裁判に出席する日々が続く。だが、病気の弟やアル中の父、困窮する家計などのなか、そんな生活すらままならなくなっていく。そんなある日、アシッド・アタック被害者の救済や酸の販売禁止要求をしている社会活動家のアモール(ヴィクラント・マイシー)との出会いはマルティにとっての転機となる。マルティはアモールとともに酸の販売禁止を求める運動に関わっていく。
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日本ではアシッド・アタックなる犯罪を身近に想像できる人は少ないのではないでしょうか。女性の顔面に強酸を浴びせ、火傷を負わせるというものです。理屈のうえではどこの国でも起こりえますが、特にインドでは非常に多くの女性がアシッド・アタックの被害に遭っています。それはなぜなのか?

ディーピカー・パードゥコーンが実在のアシッド・アタック被害者で、酸の販売禁止運動に関わったり、テレビのパーソナリティなどで活躍するラクシュミー・アガルワールという女性をモデルにした役を演じます。監督は前作【Raazi】(2018)でフィルムフェア賞最優秀作品賞、最優秀監督賞などを受賞したメーグナー・グルザール。ただし、現実の事件をモデルとしたという点では【Chhapaak】は監督の前々作でデリーでの二重殺人事件を扱った【Talvar】(2015)に近いかもしれません。

タイトルの「chapaak」は水の音である「パチャ」とか「パシャ」という意味。本作では恐ろしいことにそれが強酸の音になります。【Chhapaak】の制作が発表されたとき、そしてその後ディーピカーのビジュアルが発表されたときはさすがに衝撃でした。なんといってもボリウッド・ナンバーワン美女のディーピカーが敢えて顔に特殊メイクをする役作り。一方では非常に関心があったものの、正直なところもう一方では少し観に行くのを躊躇する気持ちもありました。

実際に観てみると、やはりディーピカーがここまでしてやりたいと思った理由がわかりました。確かにアシッド・アタックが起きるとニュースに取り上げられるものの、被害者への配慮からか、それとも被害者を「触れたくないもの」としてみなす感情からかはわかりませんが、被害者の「その後」が知られることはあまりありません。それを自ら世に出ていくことでアシッド・アタック自体を明るみに出したのが本作のモデルになったラクシュミー・アガルワールであり、彼女を描く【Chhapaak】であり、彼女を演じるディーピカーなのです。

もっとも、作中での主人公マルティの人物像やストーリー構成などは悪い意味ではなく、ちょっと意外でした。マルティはアシッド・アタックという非人道的な犯罪の被害者でありながら、ひたすら悲劇のヒロインというわけでもなく、それとは逆に怒りに燃え、復讐を誓った闘士でもありません。もちろん事件直後は痛々しいですが、しばらく後を描いた場面では、むしろ家計の事情を気にして仕事を探していたりと(なかなか見つかりませんが)、妙に現実的です。

ストーリーも被害者を描くドラマというよりは裁判モノです。前半は事件の裁判、後半は酸販売の禁止を求める公益訴訟が展開します。舞台も事件の初審であるセッションズ裁判所や高等裁判所、公益訴訟では最高裁と三審すべての裁判所が出てきます。

法律絡みで興味深かったのが、マルティ側が裁判を進めるにあたって、アシッド・アタックを適切に罰することができる法律が存在しなかったというところ。弁護士同士の話で紹介されるのですが、法律では強酸をかけるのは熱いコーヒーをかけるのと同じ扱いで、刑法の規定では量刑が最大で禁固7年、刑に処せられても実際には2年ほどで出られてしまうそうです。マルティは画期的な判決で量刑10年を勝ち取ります。

ストーリー構成も変わっていて、犯行の瞬間(強酸が掛けられた)は何度も回想シーンとして出てきますが、事件に至る過程についてはほとんど明らかにされないままに終盤に向かい、最後にようやく映像で真相が明かされます。

この「真相」のほかにも、現在でも発生続けているインドのアシッド・アタックの事件数、酸が薬局で簡単に買えてしまうことやその驚くべき安さなど、アシッド・アタックをめぐる事実が作中ではいろいろと取り上げられており、知っているようで知らないアシッド・アタックの背景を知ることができます。

作品の雰囲気は事件の凶悪さや残虐さを考えるとむしろ淡々としており、そのへんが作品としての面白さに欠けると考える人もいるかもしれません。しかし、おかしな脚色をしないというのはメーグナー・グルザール監督のこの問題に対する誠実さの表れではないかと思います。

インドの社会問題と真摯に向き合う姿勢がうかがえる作品です。

音楽
「Chhapaak」

「Khulne Do」

「Nok Jhok」

 

ディーピカー・パードゥコーン  マルティ役
ディーピカーの顔の特殊メイクはトレイラーだけでもかなりすごいですが、本編ではもっとです。わずかな回想シーンを除いて全編が顔に傷を負った状態での演技です。いい演技をしても外見が注目されてしまう過去作品とは反対で、外見の美しさをいわば「封じた」ことで、心に傷を負いながらも現実と折り合っていかなければならないというマルティの内面を見せる演技ができたと思います。

ヴィクラント・マイシー   アモール役
被害者を助ける活動をしながらもその一徹さに被害者ですらちょっと引いてしまうようなアモール役。デビュー作は【Lootera】(2013)でランヴィール・シンの相棒役。前半のみの役でしたがなかなか良かったため印象に残っていました。その後あまり出演作は多くなかったのですが、とうとう良い役をつかみました。

 

 

【Chhapaak】
インド映画の特殊メイク技術のレベルの高さを見たい人、アシッド・アタックの実態を知りたい人、ディーピカーの気合いが入りつつもユルさを交えた役作りを見たい人、おすすめです。

【Good Newwz】

監督:ラージ・メヘター Raj Mehta
出演:アクシャイ・クマール、カリーナー・カプール、ディルジート・ドーサンジ、キアーラー・アードヴァーニー、アーディル・フサイン

2019年12月27日公開

トレイラー


ストーリー

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ヴァルン(アクシャイ・クマール)とディープーことディープティー(カリーナー・カプール)のバトラ夫妻はムンバイに住む共働きの夫婦。夫婦仲は悪くないが子供ができないのが悩みのタネだ。妊活に熱心なディープーとさほど熱心ではないヴァルンとの間には微妙な温度差もある。

ある日2人はヴァルンの妹夫婦に勧められた不妊治療エキスパートのジョーシー医師(あーディス・フサイン)にかかることにする。病院を訪れた2人にジョーシー医師が勧めたことにより、2人は体外受精(IVF)による出産を決意する。2人は病院で同じ苗字を持つハニー(ディルジート・ドーサンジ)とモーニーことモニカ(キアーラー・アードヴァーニー)のバトラ夫妻に出合う。その時は単なる偶然と気にしなかった2人だが・・・

その後ヴァルンとディープーのもとにジョーシー医師から「大変な間違い」が起きたとの知らせが届く。病院に駆け付けた2人ジョーシー医師が告げたところでは、IVFでヴァルンの精子と同じ苗字を持つハニーの精子を取り違え、違う相手に授精してしまったのだという。しかも、ディープーとモニカは受胎に成功する。このままでは2人とも夫のではない子供を出産することになる。大いに悩む4人。どうする?
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不妊治療の体外受精で2組の夫婦の精子を取り違えたというとんでもない設定のコメディです。出演はアクシャイ・クマール、カリーナー・カプール、ディルジート・ドーサンジ、キアーラー・アードヴァーニー。アクシャイとカリーナーは歌への特別出演を除くと【Kambakkht Ishq】(2009)以来の共演になります。

奇抜な設定や変わったキャラクターからスタートしながらも、最後は優れたドラマとして終わらせるというインド映画お得意の展開でした。性格も子供に対する思いも異なる4人があれこれと絡み合い、ときに対立しながらも最後にはわかり合うところも王道です。

4人の違いは他人の子供を妊娠するという異常事態の受け止め方に最もよく現れます。アクシャイ・クマール演じるヴァルンはもともと子供嫌いのところがあり、今回のアクシデントにも最初は中絶という選択肢も含めて考えます。カリーナー・カプール演じるディープティーは自分のお腹にいる子だということで愛しく思いますが、やはり夫の子でないことは気になります。ディルジート・ドーサンジ演じるハニーは妻のお腹にいる子も大事ですが、他人のお腹にいる「自分の子」も同じくらい大事なようです。キアーラー演じるモニカは自分のお腹の子は神様からの授かりものと考え、誰が父親かなどは考えずにひたすら愛します。

こんな4人なので、生まれた子供をどうするかについて意見がかみ合うはずはありません。特にハニーは他人の妻のお腹にいても「自分の子」なので、いろいろ世話を焼くと同時に将来は歌手にすると決めつけたりしてまたまた争いのタネになります。そんな彼らですが、実際に2人の出産を経験して少しずつ変わっていきます。その心情の変化の描写がこの作品の核になります。子供ができるといろいろ変わると言いますが、はたしてそれが「他人の子」でもそうなのでしょうか。

久々に共演のアクシャイとカリーナーですが、本作では常識をわきまえた(わきまえているはずの)ミドルクラスの夫婦の役。長らく共演がなかったとは思えないほどぴったりと息が合っていて文句なし。ディルジート・ドーサンジは基本的にはボケながら、ここぞでいいところを見せる得意な役でこれまた納得。キアーラーもいままでの大人しい役を乗り越えるちょっとおバカな、でも4人のうち最も純真な優しい役で、役柄が大きく広がった感じです。

キャストから悪い作品になるはずはないと思っていましたが、ここまでの傑作と予想しませんでした。安定のキャストとよく出来たストーリーでボリウッドの王道の人情ドラマを楽しめる作品です。

音楽
ディルジートとキアーラーのカップルがコテコテのパンジャービーという設定もあり、音楽もバングラ色が強くなっています。

「Chandigarh Mein」

「Laal Ghaghra」

「Sauda Khara Khara」

 

アクシャイ・クマール  ヴァルン・バトラ役

今回のアクシャイは【Jolly LLB 2】(2017)や【Pad Man】(2018)の「いいひと」とは違い、皮肉屋でおまけに子供はあまり好きではないという役。かつて似たような役を【Heyy Babyy】(2007)(『スリーメン&ベビー』)でやったことがあります。ただ1カ所、キアーラー演じるモニカについてひどく笑う場面、あれはなんか別の作品のキャラが紛れ込んだようでちょっと違和感がありました。


カリーナー・カプール
  ディープティ「ディープー」バトラ役

4人の中では一番心理描写が丁寧な役で、その意味では本作の中心と言っていいでしょう。それができるのはさすがにカリーナーでした。

 

 

 

ディルジート・ドーサンジ  ハニー・バトラ役

ヒンディー映画には【Udta Punjab】(2016)や【Phillauri】(2017)などシリアスな作品で売れましたが、元はラブコメ大好きパンジャービー映画出身。今回でようやくコメディでヒットが出ました。

 

 

キアーラー・アードヴァーニー  モニカ「モーニー」バトラ役

元々整った顔立ちの美人で、しかも昨年【Kabir Singh】(2019)の大ヒットで大人しい役が定着してしまうかと思われたそのとき、本作のはっちゃけた役を持ってくるとはさすがに何か持っています。トップクラスに向けていい軌道修正でした。

 

とんでもない間違いを犯す病院の医師2人にアーディル・フサイン、ティスカー・チョープラーの両ベテラン。いいサポートになっていました。

【Good Newzz】
ボリウッドの良質コメディを観たい人、絶妙のストーリー展開を楽しみたい人、おすすめです。